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術後合併症

こんにちは!8月末にムーアの分類に触れましたが、今回は具体的な術後合併症にも言及していこうと思います。
術直後に起こりうる合併症について述べます。

・麻酔覚醒遅延
麻酔薬や筋弛緩薬の残存、鎮痛薬や鎮静薬の使用、低体温、低血糖・高血糖、電解質異常、高二酸化炭素血症、低酸素血症などが原因となって麻酔からの覚醒が遅くなります。気管内チューブを抜去した後に覚醒遅延の状態が続くと呼吸抑制の危険が高くなります。

・気道閉塞
麻酔薬や筋弛緩薬の残存の影響により、気道内分泌の貯留、舌根沈下が起こるため気道が閉塞しやすくなります。気管内チューブの挿入と抜管という物理的な刺激によって、声門浮腫、反回神経麻痺、喉頭けいれん、咽頭浮腫などが起こりやすく気道閉塞が起こる危険が高くなります。気道閉塞によって呼吸が停止すると生命が危機にさらされます。

・急性循環不全=ショック
出血、脱水などにより循環血液量が減少し末梢血管の虚脱が生じて血圧低下を起こします(循環血液量減少性ショック)。心筋梗塞、心タンポナーデ、重篤な不整脈などにより心拍数が減少し、血流が全身に行き渡らなくなります(心原性ショック)。

・低体温
全身麻酔によって体温中枢が抑制されます。さらに術中は筋肉の活動もないため、熱が産生されなくなり体温が低下します。手術中に手術室が寒かったり、冷たい輸液や輸血が使用されたりすることで体温が低下します。また、開腹手術の場合には臓器が外気にさらされることで熱が奪われます。これらの原因から低体温を起こしやすいです。身体は体温が32〜35度の軽度低体温に陥ると骨格筋が戦慄(シバリング)し、熱を産生しようとします。シバリングが起こると酸素消費量が増大し、低酸素血症を引き起こす原因となります。低体温が進むと神経系では感覚鈍麻から昏睡状態となります。呼吸は頻呼吸から徐呼吸となり、やがて呼吸停止となります。循環は頻脈から徐脈となり、やがて心停止となります。また、低体温は血液凝固障害を引き起こします。

・術後出血
手術中の止血が不完全であったり、血管の結紮糸が外れることにより起こります。創部やドレーンの排液での出血量・性状を観察します。100mL/hを超える出血がある場合は医師に報告します。出血量が多い場合、出血性ショックのリスクが高くなります。

・低酸素血症
麻酔薬や筋弛緩薬の残存や鎮静薬の使用による低換気、肺胞が虚脱してしまう無気肺、術後疼痛、術中の出血によるヘモグロビン量の低下が原因となって、体に十分な酸素が取り込めず低酸素血症を起こしやすいです。低酸素血症は創傷治癒を遅らせる原因となります。

・低血圧
麻酔薬の残存による末梢血管抵抗の減少、術中・術後の出血やサードスペースへの水分の移行(手術侵襲によって血管透過性が亢進し、細胞内でも血管内でもない場所に水分が溜まる現象)が原因となって循環血液量が減少し、低血圧を起こしやすいです。

・高血圧
既往に高血圧症がある患者さんの降圧薬からの離脱症状、高二酸化炭素血症、低酸素血症、頭蓋内圧亢進、疼痛、過剰な輸液、戦慄(シバリング)が原因となって高血圧を起こしやすいです。

・不整脈
Β遮断薬の使用、麻酔薬や筋弛緩薬の残存、心筋虚血、低体温、低酸素血症、アシドーシス、循環血液量の減少、電解質バランスの異常、術後交感神経活動の亢進、疼痛、不安などが原因となって不整脈を起こしやすいです。

・深部静脈血栓症
術中は全身麻酔のために下肢の運動はできません。術後は安静臥床や疼痛のために下肢の筋肉を動かすことが少なくなります。そのため、下肢の血液がうっ滞してしまい血栓ができやすいです。さらに手術で傷ついた静脈壁を修復するために血液凝固能が亢進するため、術後は深部静脈血栓症を起こしやすいです。

上記に加え、患者さんの既往などを踏まえてどのような症状が出やすいかを予測することが重要です。
例えば、腎不全の患者では、薬剤代謝遅延が予想されますよね。喫煙者なら、痰貯留による気道閉塞に注意が必要です。

では。

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